錬金術 ―Roy Side―
鋼のがショウ・タッカー氏のところへ通っているときのことだった。は自分の査定を忘れるほど心此処にあらず状態だったのだが・・・彼女は心配されることが苦手らしいから私もそこにはあまり触れなかったのだが。が査定を済ませた日・・・。
「流石はだな・・・」
私はいつもと変わらずに声をかけていた。いつものように振舞えば彼女も気が楽になるだろうと思ったからだ。
「今年も見事・・・」
「ねぇ、ロイ・・・」
やはり・・・と言うべきなのか、彼女はいつもと様子が違っていた。私は思わず口を閉ざしてしまった。は私のほうを見ずに話をしていたので私はが何を見ているのか気になって彼女と同じ方向へ視線を向けた。
「雨・・・降りそうだね・・・」
そういえば、先程から雷の音が鳴っていたが・・・実際に見てみると此処まで降りそうだとは思わなかった。今降り出してもおかしくないという空。だが、の瞳はこの空を映していなかった気がする。この空を通して何かを見ている・・・?
「そうだな・・・、まさか雷が怖いのか?」
私はに何を見ているのか聞いてみたかったが、きっと今は聞いちゃいけないことなのだろうと思い、いつものようにふざけてみた。まぁ、そうだったら可愛いのに・・・という私の本心もあったがね。勿論、今のままでも・・・。
「何言ってるの?そんなの怖くないわよ」
そこまであっさり否定されても・・・(涙)
「ただ・・・」
いつもの様なやり取りはなかった。また悲しそうな顔をして空を見ている。私は君のその悲しそうな顔を晴らしてあげることが出来ないのか・・・?は窓に手を添えて天を仰いだ。
「不安が・・・消えないのよ・・・」
「・・・?」
明らかに違う。いつもとは何かが・・・いや『違う』のではなく・・・もっと何か別の感じがする。そう、今にも消えてしまいそうな感じだ・・・私は気付いたらの腕を掴もうと手を伸ばしていた。きっと、が消えてしまわないように・・・ここにいると実感したかったのだろう。私は珍しく焦っていたのかもしれない。しかし、私の手はの腕を掠めて掴むことは出来なかった。それだけなのに胸が苦しくなった。
「私、ちょっとエド達のところに行ってくる!」
「・・・ッ!!」
は私の声など聞かずに走っていった。
行くな・・・行くな・・・行くな・・・!!
私は何度心の中でそう叫んだか・・・言葉に出来ないほどの不安。そして・・・悲しみ。どうして私はこんなにも彼女に依存しているのか・・・どうして私はこんなにも胸を締め付けられるような思いをしているのか・・・。
「・・・頼む・・・」
もう消えないでくれ・・・
その後、から連絡が来てショウ・タッカー氏のところへ軍を向かわせた。数十分すると、ホークアイ中尉から鋼の達が帰ってきたと知らされた。
「もしも『悪魔の所業』というものがこの世にあるとしたら・・・今回の件はまさにそれですね」
中尉がそう言ってきた。
「『悪魔』か・・・身もフタもない言い方をするならば我々国家錬金術師は軍属の人間兵器だ」
確かに、私はそう割り切っている。
「一度、事が起これば召集され、命令があれば手を汚すことも辞さず・・・」
これが国家錬金術師で軍人だ。しかし、は違う。
「人の命をどうこうするという点ではタッカー氏の行為も我々の立場もたいした差は無いという事だ」
「それは大人の理屈です。大人ぶってはいてもあの子達はまだ子供です」
あぁ、そしたら、もそうだ・・・あの子はまだ18歳なのだから。中尉と話をしていると、もう鋼のとその弟・・・それにの姿が見えた。三人とも痛々しい背中だった。
「だが、彼の選んだ道の先にはおそらく今日以上の苦難と苦悩が待ちかまえているだろう。無理矢理納得してでも進むしかないのさ」
私は黙って歩き続けた。そう、全員が見れるように前に出た。
「そうだろう、鋼の」
私がそう言ってもまだ落ち込んでいる。
「いつまでそうやってへこんでいる気だね」
「・・・・・・うるさいよ」
「軍の狗よ、悪魔よとののしられてもその特権をフルに使って元の身体に戻ると決めたのは君自身だ。これしきの事で立ち止まってる暇があるのか?」
が動く気配があった。私のこの言い方に怒っているのだろう。
「『これしき』・・・かよ」
「・・・エド?」
が口を開いた。先程とは全く違い、あまり生気を感じられなかった。
「あぁ、そうだ。狗だ悪魔だとののしられてもアルと二人、元の身体に戻ってやるさ・・・だけどな・・・オレたちは悪魔でも・・・ましてや神でもない・・・人間なんだよ!たった一人の女の子さえ助けてやれない!!
これが鋼のが感じたことなのか・・・そして・・・・・・。
「ちっぽけな人間だ・・・!!」
君もこんな風に感じたのか?
「・・・カゼをひく。帰って休みなさい」
私はもうこれ以上は危険だと感じ、鋼のにそう言った。振り返って私はにも同じことを言おうとした。しかし、と目が合って驚いた。そして、激しく後悔をした。
「君も・・・帰って休みなさい」
は何で?という顔をしていたが、笑顔で答えてあげるほど私にはもう余裕が無かった。
「君にそんな顔をされては私まで痛々しく思ってしまう」
私にこんな風に思わせるほどのの表情・・・私はにこんな顔をしてほしくないのに・・・こんな・・・今にも泣きそうな顔を。
「君の笑顔が見られるのなら・・・今は休んで・・・また私の前で笑ってくれないか・・・」
そうなってくれるのなら私は何でもしてあげよう・・・私は、の頬に流れる涙を優しく拭ってあげた。
「・・・え・・・?何で私・・・泣いて・・・?」
無意識でないてしまうほどの傷を背負っているのだろうか・・・私はにいつもの様に振舞おうと必死になっていた。
「泣いている君が分からないのなら私にも分からないな」
私はいつものように振舞えたのか?が呆然としていると、鋼のがの腕を掴んで何処かへ消えてしまった。今、確かに私はに触れていた。しかし・・・今は。
「大佐」
自分の手を見ながら呆然としていたら、中尉が話しかけてきた。
「・・・何かね」
「彼女はきっと・・・大丈夫ですよ・・・」
中尉は私にそう言って中へ入るように言ってくれた。その好意に私は頷いて答えた。
・・・
君は何を背負っている?
私は君に何が出来る?
私は君の何を知っている?
何も知らない私だが・・・
君を助けたいと思っている
癒したいと思っている
私は・・・
君を思うだけで他のものが見えなくなるほど
本気で愛してるんだ・・・
あとがき
…えぇ、一応短編にしちゃいました。
これは、長編の『錬金術』の話のロイの心境です。
最後のほう…自分で書いてて恥ずかしくなりましたよ///
2004.09.03
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