ハッピー
「はぁ〜・・・憂鬱や・・・」
この日、笑師は無限城で午前の見回りを終えてMAKUBEXのところで暇を持て余していた。
「笑師、もう少し緊張感を持て」
「せやけど、十兵衛ハン?この雨やで・・・そないな緊張出ぇへんて」
十兵衛はそれ以上は何も言わなかった。
「・・・そうだ、笑師。暇だったらちょっと買い物に行ってきてくれないかな?」
「お、えぇで!」
「そろそろCD-ROMがなくなってきててさ・・・買ってきてくれない?」
「よっしゃ!まかしとき。ほな、行ってくるわ!」
そう言うなり笑師は走って出かけてしまった。笑師が見えなくなってMAKUBEX、十兵衛、咲羅、鏡は会話をし始めた。
「・・・笑師は忘れているのかしら?」
「あの様子だとそうみたいだね・・・」
「まぁ、その方が後々の反応が楽しみだよ」
「鏡・・・」
「それじゃ、こっちの準備が終わるまで彼にはがんばってもらおうか」
MAKUBEXはそう言ってみんなを引き連れてどこかへ出掛けた。
無限城から出た笑師は傘を差しながらMAKUBEXに頼まれた品を買いに向かっていた。
「え〜っと・・・確かこれやな・・・」
メーカーなどを確認してお目当てのものを見つけた。笑師は買い物が無事終わって帰り道はゆっくり歩いていた。
「は〜、雨の日の散歩っちゅーのもええもんやな♪」
傘から顔を覗かせて空を見上げた。空は曇だけど、それも悪くないと思っていた。
「・・・笑師か?」
空を見上げていたら声を掛けられて視線を戻した。すると・・・。
「なんや、士度クンやないか〜vv」
「って、引っ付こうとするな!」
嬉しさのあまり士度に抱きつこうとすると、それより早く士度の拳が笑師の頭に直撃した。鈍い音と共に笑師は頭をさすりながらその場にしゃがみこんだ。
「たたた・・・唯のスキンシップやないか〜;」
「テメーのは度が過ぎるんだよ」
「・・・って、士度クンはこんないなところで何してたん?」
「あ?仕事の帰りだ」
「はー・・・そらえらいお疲れさんやな〜」
「笑師は何してたんだ?」
「ワイはMAKUBEXハンに頼まれて買い物を済ませたところや」
笑師は証拠を見せるように買った品物を士度に見せた。
「そうか・・・」
「せや、士度クン!これから飯食いに行かへん?ワイまだ何も食べてないんやで」
士度は突然言われて少し考えていた。笑師は士度の返事を待った。
「まぁ、この後何もないし、いいぞ」
「ホンマ!?めっちゃ嬉しいわ〜vv」
「だから引っ付くなっつーの!」
またしても鈍い音が響き渡った。
飯を食いに行く、と言っても行く場所は決まっていた。
―カランッ―
「いらっしゃい」
「お久しぶりでんな、みなさん!」
「あ、笑師に士度!」
「何でテメーらがここに来るんだよ!」
期待通りの反応をしてくれた銀次と蛮。笑師はそれを軽く受け流して士度と共にカウンターに座った。
「今日はどうしたんだい?」
「あぁ、こいつが腹減ったって。何か作ってくれないか?」
「分かった、ちょっと待ってろな」
波児は何かを作り始めた。笑師は何がでてくるのか楽しみだった。
「・・・マスター、俺のも頼む」
「はいよ」
「士度クンも食べるん?」
「あぁ、ついでだからテメーの分も払うよ」
「ホンマ?士度クンがなんや優しいわ〜!」
「猿まわし!だったら俺の分も奢れ!!」
「あ?奢ってやる義理なんてないだろーが」
「何ぃ!?」
また士度と蛮の口喧嘩が始まった。それを止めようと銀次まで入って騒がしくなった。
「ははっ、ホンマにあんさんたち金ないんやな」
「うぅ・・・笑師、何気にひどいよ〜・・・」
「本当のことだろう。ほら、サンドイッチでいいか?」
「おおきにな!」
笑師は波児に渡されたサンドイッチをおいしそうに食べ始めた、続けて士度の分も出てきて蛮との口喧嘩をやめてそれを食べ始めた。けど、そんな士度と笑師を羨ましそうに眺めている銀次に負けて結局士度は銀次と蛮の分も奢ってあげたのだ。
「・・・ほな、ワイはそろそろ戻らんとあかんねん。見回りもあるしで」
笑師が時間を見てそう言った。
「あ?まだいいじゃねーか」
「へ!?」
意外な言葉を意外な人物が言った。
「無限城には十兵衛とかがいるだろう?雨で少し帰るのが遅くなったって言えば平気だろう」
「士度クン?」
「ちょっとその辺り歩こうぜ」
士度はそう言い終るより早く笑師の手を引いていた。普段はこんなことを言わない士度に驚きを隠せないまま笑師は士度と共にホンキートンクを後にした。
「・・・何だ?今日の猿まわしは」
「うん・・・・・・あ!」
「どうした、銀次」
「そうか、今日って・・・」
ホンキートンクから出て二人は雨の中歩いていた。本当に何をするでもなくただ歩くだけ。本当に『辺りを歩いて』いるのだ。けど、それだけでも笑師は嬉しかった。こうやって士度とのんびりする暇なんて今までなかったからだ。雨の所為か、周りも静かで本当に散歩をしているという実感が湧いて自然と笑みがこぼれる。
「なぁ、士度クン?」
「あ?」
「今日はホンマにありがとな?ワイ、こうやって士度クンとのんびりする暇なかったから嬉しいんや」
「何だ、そんなことならいつでも散歩くらいしてやるよ」
「約束やで!!!」
嬉しさのあまり大声になってしまった。慌てて口を塞ぐが、もう言ってしまったので遅い。驚いた後に士度は『変な奴』と言いながら笑師の頭をコツンと叩いた。笑師はその触れられた部分がやけに暖かくて嬉しくなった。
そんな幸せな気分に浸っていたら・・・。
―ピピピピピ・・・―
「あぁ、俺のだ。悪い」
「えぇて☆」
士度の携帯が鳴った。通話だったらしく、士度は少し笑師から離れた。士度も携帯を使うんだなと笑師は思った。さほど時間をかけずに用事は終わったらしい。士度が戻ってきた。
「・・・仕事かなにか入ったんか?」
「いや、なんでもない」
さよか?と笑師はさほど興味もなさそうに言った。
「さてと・・・そろそろやばいか?」
「・・・そやな〜。てか、あれから結構時間かかったんやな」
気付かないうちに時刻はお昼を過ぎていた。これはやばいか?と笑師は思った。
「ほな士度クン、また散歩しよーな♪」
そう言って笑師は士度と別れた。一人残った士度は一人呟いた。
「あいつ・・・あの様子じゃ完全に忘れてるな・・・」
「笑師春樹、只今戻りましたで〜」
無限城のMAKUBEXの部屋に戻った。けど、誰もいなかった。
「MAKUBEXハン?十兵衛ハン??」
部屋を確認してまた部屋を見回した。確かにそこはMAKUBEXの部屋だった。じゃあ何故人がいないのか・・・。
「まさか・・・誰かに襲われたんか!?・・・って、その程度で負けるはずないやんか」
一人であーだこうだと考えていた。
「・・・貴様は一人で何をしているのだ?」
後から声がして振り向いた。
「十兵衛ハン!MAKUBEXとか他のお人は何処に行ったん?」
「まぁ、ついてくれば分かる」
「???」
笑師は訳も分からず十兵衛について行った。すると、MAKUBEXの部屋から少し離れた部屋に着いた。
「ここに皆さんおるん?」
「あぁ」
何でこんなところに??と疑問に思いながらも扉を開いた。その中は暗くて何も見えなかった。
―パッ―
―パンッパンッ!!―
「なんや!?」
いきなり部屋が明るくなって大きな音が沢山鳴った。笑師が驚いていると、今度は大声が聞こえた。
『笑師、HAPPY
BIRTHDAY!!!』
「・・・HAPPYて・・・!!」
ようやく気が付いた。今日は、笑師の誕生日だったのだ。新生VOLTSの仕事で忙しかった笑師はすっかり忘れていたのだ。回りを見ると、MAKUBEXをはじめ、咲羅に鏡、士度、俊樹がいた。
「おめでとう、笑師」
「君の誕生日なのに本人が忘れてるなんてね」
「鏡、そう言うな」
「誕生日おめでとう、笑師」
「よかったな」
みんなが自分を祝ってくれている。それだけで嬉しかった。
「・・・あ、ココだったんだー!」
「ったくよー、何で部屋を変えてやってんだよ」
入ってきたのは銀次と蛮だった。
「笑師、誕生日おめでとー!」
「飯あるんだろーな!」
銀次と蛮も加わって更に人数が増えた。
「・・・おおきに・・・おおきにな!」
笑師は嬉しさのあまり目が潤んでしまった。ドアの入り口で立っている笑師の背中を十兵衛が軽く押した。
「さ、これで全員だ」
「じゃあ、パーティを始めようか!」
MAKUBEXの一言で笑師春樹の誕生日会が始まったのだ。
ホンマ、みんなありがとぅな!
こんなにうれしい誕生日なんて初めてや!