キス
暑いのにも関わらず暴れる輩がいる無限城。
「・・・こっちはもう終わったね、十兵衛」
「あぁ。あとは、笑師達だが・・・」
十兵衛と花月は笑師と俊樹がいる方向を向いた。
「こっちは終わったぞ、筧」
「しっかし、皆さん血気盛んやなぁ」
「笑師に言われたらお終いだね」
「なっ・・・花月はん〜!」
こんな毎日を過ごしているが、こうやってみんな仲が良い。ほんの一部を除いてだが。
「そうや、今日十兵衛はんの誕生日やんか!」
「・・・そうだったか?」
「十兵衛、自分の誕生日を忘れないでよι」
花月が十兵衛に言った。こんな毎日を過ごしていると、そういう行事に疎くなってしまうのだ。
「でも、一年に一度しかないんだからみんなで十兵衛の誕生日を祝いましょうか」
「そうや!せやったらMAKUBEXにも言うて準備せなあかんな!ワイと十兵衛はんのコントの仕込みも・・・」
「それはいらないだろう」
「そないなこと言わんでぇなー!またきぐるみるみるでもしようや!」
「な・・・あれはもうやらないぞ!!」
俊樹は過去の恥ずかしい経験を思い出して足早にその場から立ち去ってしまった。笑師はその後を追って何か騒いでいたようだった。残った十兵衛と花月は静かにそれを見送っていた。二人が見えなくなってから花月が。
「十兵衛、折角だから祝ってもらいなよ。僕も手伝ってくるから・・・その間、何かして時間を潰しててよ」
「む・・・承知した」
その返事が十兵衛らしくて花月は笑ってしまった。
「それじゃ、行ってくるね」
花月も俊樹や笑師が向かったほうへと歩いた。
一人になった十兵衛は、何をしようかと考えていたが、趣味とかがあまりないのですることがなく無限城内を歩いていた。
「しかし・・・こうも時間が余ると言うのは・・・」
「慣れてない?」
突然声がした。だが、聞きなれた声だったのであまり驚かずに十兵衛は質問をした。
「鏡・・・貴様何をしている?」
「あれ?俺だってすぐに分かったの?」
クスクスと特徴的な笑いをしながら十兵衛の隣を歩き始めた。
「まぁいっか。それよりも十兵衛?」
「何だ」
「今日、十兵衛の誕生日だよね?」
一瞬時が止まった。
「何故貴様がそれを知っている!?」
「やだなぁ、そりゃ愛する人のことなら何でもv」
それを聞いてよく恥ずかしがらずに言えるな!と言いそうになったが、どうせ流されるのがオチなのであえて言わなかった。
「十兵衛ってさ、何か欲しいものとかないの?」
またこの男は・・・言うことが突然過ぎて十兵衛の思考が少し遅れて追いつく。
「いや・・・趣味とかあまりないからな・・・」
「ふぅん・・・そっか」
それを最後に鏡が黙った。それに倣って十兵衛も黙ってしまったが、このままの状態で時間を潰すのは辛いものがあると判断した十兵衛は、珍しく会話を切り出した。
「・・・プレゼントというのは・・・」
「ん?」
話しかけてくれたのが嬉しいのか、鏡が十兵衛の方に顔を向けて話を聞いていた。
「自分が貰って嬉しいものとか・・・日常に必要なものとか・・・そういうものがいいとよく聞くが?」
鏡は先程自分が話した質問に答えてくれているのだろうか?と自問自答したが、面倒なので止めにした。その代わり、十兵衛の話に相槌を打った。
「そうかもしれないねぇ・・・でも、俺も欲しいものとかないんだよね・・・」
「何だ、貴様もか」
何気なく言った言葉に十兵衛が少し笑った。鏡は何故かその笑顔から目が離せなくなった。そのまま十兵衛は言葉を続けた。
「なら、鏡と俺は同じだな」
目は見えないが、十兵衛は鏡に顔を向けてそう言った。鏡はそんなことを言う十兵衛が新鮮で何かが込み上げてきた。何事もなかったかのように十兵衛は鏡の先を歩くが、直ぐに鏡が止まっていることに気が付いて振り向く。
「・・・どうかしたのか?鏡」
「あ・・・いや・・・」
十兵衛は鏡の様子が変わったのを感じてそう呼びかけた。いつもは鏡を突き放すような態度を取るのにこういう時になると人の心配をして・・・。
「全く・・・本当に面白いよ、十兵衛」
「何か言ったか?」
小さな声で言った言葉は幸い、十兵衛には届いていないらしく、言ったことと違うことを鏡は十兵衛に教えた。
「クスクス・・・いや?ただ、俺にも欲しいものがあったってこと」
「は?」
何が言いたいのかまだ分からない十兵衛に近づく。
「(本当に君は面白いよ)」
「か・・・鏡??」
様子がおかしい鏡を心配し始める十兵衛の腕を鏡は自分の方へ引っ張り、顎を上げた。
「・・・!?」
唇に何か温かいものが当たると思った直後、自分がキスされていることに気が付いた。しかも、相手は鏡。空いている手で鏡を突き放した。
「・・・っ何をする!!」
顔を赤くしながら十兵衛は鏡を怒鳴った。鏡は面白いとでも言うかのようにクスクスと笑っている。
「何って・・・さっき十兵衛が言ったじゃないか。プレゼントには自分が欲しいものがいいって」
「それと何の関係が・・・」
「俺が欲しいのは十兵衛。君なんだよ」
今まで自分から少し離れたところにいた鏡がいつの間にか直ぐ後にいた。驚いて振り向くが、今度は頬を鏡の両手で包まれた。
「っ!!」
「俺は十兵衛が欲しいんだよ。だから、今のキスで俺自身を十兵衛にプレゼントしたってわけ」
「それの何処がプレゼントだ!!」
「クスクス・・・ハッピーバースディ、十兵衛♪」
ゆっくり手を放しながら鏡はどこかへ行ってしまった。一人残された十兵衛は呆然と立ち尽くしていた。
「な・・・何なんだ、あいつは!!」
そう言いながらキスされた口を右手で覆った。自分の顔が赤い。
「・・・くそっ」
鏡にキスをされて嫌にならない自分がここにいた。
一年に一度の誕生日
十兵衛の中で
何かが『生まれた』
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