鳴らないベル




 ある日のホンキートンク。蛮はコーヒーを飲みながら携帯を見ていた。銀次は放電するからと言われてあまり携帯を触らせてもらえなかったのだ。
「蛮ちゃん〜、お仕事来てる?」
「いや・・・来てねぇ」
蛮はそう言ってもまだ携帯を見ていた。いつもなら此処で蛮が『仕事がこねぇ!』とか言って暴れるのに、最近はそんなことが起こらない。それが一週間も続いてしまったら銀次も少し心配になるのだ。
「ねぇ、蛮ちゃんって誰からかの連絡待ってるの?」
「あ?何でだよ」
「だって、前なら仕事が来ないってことが分かったら暴れてたでしょ?それなのに、最近はずーっと携帯を見てて、携帯を見終わったらため息ついてるし・・・」
銀次が心配しながら蛮に聞いた。蛮はあー・・と小さく言いながら頭を掻いて、何でもないと言う。

「(俺だってそんなに携帯見たくねぇっつーの・・・)」

そう思っていてもやはり目で携帯を見てしまう。それが始まったのは一週間前のあの日から始まった。




















―一週間前―
 街を歩いていた蛮は、前から歩いてくる見知った人物を発見した。










「おー、猿まわし」

「・・・お前か」












 何かしていたのか、蛮に声をかけられて少し驚いていたのは蛮の恋人の冬木士度だった。
「何やってんだ?」
「あぁ、最近仕事が増えてきてな。仲介屋が俺と連絡が付かないからって携帯を持たされたんだ」
少し自慢かよ、と蛮はタバコを取り出した。けど、すぐに考えが変わった。





「・・・お前、やっと携帯持ったのか?」

「あぁ、機械とか苦手だからな」





 携帯を見せながら士度は苦笑した。蛮は見せてきた携帯を奪ってすぐにボタンを押し始めた。
「お・・・おい、美堂!?」
何をしているのか分からない士度は少し慌てたように蛮を呼ぶ。そんな風に慌てる姿も面白いなんて思える蛮は重症なのだろうか?
「あー、大丈夫だって・・・ほら」
蛮は意地悪そうな顔をして士度に携帯を返した。士度は呆れ半分怒り半分みたいな顔をしながら携帯をポケットにしまった。
「その携帯に俺の携帯の番号入れといたから」
「・・・は!?」
唐突に言われて驚きながら携帯をもう一度取り出して確認をした。その間、蛮は士度の横を通り過ぎて歩いていた。
「ちょ・・・俺の番号は教えなくていいのか?」
「一々打つのが面倒だから今度電話しろよ」
蛮は士度の方を向かずにそう答える。士度は『分かった』と小さく言いながら蛮の隣を歩いてマドカ邸に戻ったのだ。




















 これが一週間前。蛮は士度と離れてから早速携帯を見ていた。しかも、少し(かなり)期待して待っていた。しかし・・・。





「なぁーんで何にもしてこねぇんだよ・・・」





 蛮は初めて士度に直接連絡が取れる手段が出来たと内心喜んでいて、士度からの連絡が欲しかった。だから、蛮は自分の携帯の番号を教えないで士度と別れたのだ。それなのに、電話が来ない。その上一週間も・・・何度もこっちからマドカのところに電話を入れようか、直接会いに行こうか考えていたが、かっこ悪いとプライドが邪魔をして何もしていない。怒るというか、日が経つにつれ、寂しくなってきた。
「くっそー・・・猿まわしの奴・・・」

























自分だけがこんなに期待してるのか


自分だけがこんなに落ち込んでいるのか


自分だけが・・・


























そんな考えが頭を巡ってしまう。そんなことを思っていたら。





―♪〜〜♪〜・・・―





 突然携帯が鳴っていた。その着メロは、自分が分かりやすいようにと設定していたモノ。ということは・・・待ち焦がれていた電話。
「俺だ!!」
蛮は名前も『もしもし』の一言も言わずに自分だと主張した。
『俺だ、じゃねぇよ!!』
電話の向こう側で士度が怒鳴っていた。蛮は耳がキーンとして一旦電話を耳から遠ざけた。そして、士度の声が聞こえなくなったらもう一度耳に当てて今度はこっちが怒鳴る。
「てめぇこそ何だ!出た途端、怒鳴りやがって!俺の鼓膜を破る気かよ!?」

























『うるせぇ!それより!お前が教えた番号違うじゃねーか!!』





「・・・は?」











違う?は?俺は確かに打ったはず・・・?










『おい、聞いてるのか!?』

「うっせー!聞いてるっての!番号が違うってどういうことだ!?」

『だから、お前が教えた番号・・・別れてすぐにかけてみたら違う番号でお前に繋がらなかったんだよ!!』

「はぁ!?」

『で、その次の日に花月に聞こうとしたんだけど仕事が入って・・・仕事が終わったら終わったで今度は花月が仕事。だから、お前に直接聞こうかと思ったら今度はお前が仕事!時間が合わなくて今日になって花月と連絡が付いて確認したら番号の一番最後の数字が『5』じゃなくて『8』になってたんだよ!!』





 事細かく説明をしてくれた後、士度は黙った。蛮は、自分が押し違えたんだと自覚したのだ。すぐ下のボタンだったからきっと間違えたのだ・・・と。




















「・・・じゃあ、あの後すぐに俺に電話したのか?」

『あ?当たり前じゃねーか?』






















 士度は何言ってるんだ?とでも言うかのような言い方で言った。蛮は、それだけで嬉しくてつい顔が赤くなり、綻んでしまう。

























「・・・おい、猿まわし」

『今度は何だよ?』

「今からそっちに行くから大人しく待ってろ」

『は!?』

「いいじゃねーか。じゃ、そういうことだからな」

『あ、おいっ・・・』

























 最後まで聞かないで携帯の電源を切って蛮は立ち上がった。
「あれ、蛮ちゃん何処か行くの?」
電話の内容を全く聞いていなかったらしい銀次は聞いてきた。
「あぁ、ちょっと野暮用だ。おめーは皿洗いでもして金稼いでろ」
「えぇ〜!?」
銀次の不満の声を無視してホンキートンクを出た。銀次から蛮の姿が見えなくなった辺りで蛮は走り始めた。一秒でも早く士度に会うために。




















自分だけがあんな思いをしているんじゃない

すぐに自分のところにかけようとしてくれていた

それだけで

幸せになってしまう










「おい、士度」

「何だよ」

「今度はメールしてこいよ」

「あー、無理」

「は?」

「メールの打ち方がよくわからねぇ」

「じゃあ覚えろ」

「は!?おい、蛮!!」





















今度は間違えないようにアドレスを入れた

だからもうあんな風に

鳴らないベルはなくなった




















あとがき
 はい…最近、同じような内容しか思い浮かばないのでお題を始めてみました(苦笑)
これからもお題系は増えていくと思います。
更新は遅いと思いますがよろしくお願いします;;
                                 2005.03.21


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