これからも
だんだん寒くなってくる季節。長袖を羽織る人も見かけるが、この人物は違う。
「なぁ、八戒?」
赤い髪を一つに纏め上げ、半袖を一枚着ている男、悟浄は寒くないと言わんばかりにそんな姿でアイスをほおばっている。八戒は自分が寒く思えると言おうとしたが、あえて口にしないで悟浄の問いかけに答えた。
「何ですか?悟浄」
「あのさぁ・・・」
そこまで言って少し顔を赤らめた。いつもはさばさば言う悟浄が今は口篭ってしまっている。
「悟浄?身体の調子が悪いのですか?」
「や・・・そういうわけじゃないんだけど・・・やっぱいいわ」
そそくさと部屋を出る。静かになった部屋で八戒は何なんだと思いながらも家事をこなしていた。
朝早くに部屋を出た悟浄は一人自己嫌悪に浸っていた。
「・・・なぁんで俺ってばこんなかっこ悪いわけ?てか、たった一言じゃねーか!」
無性に腹が立ってそのまま町へ出掛けた。町中は、寒くなってきたということで冬物も出てきている。悟浄はコレが欲しいとか思いながら店を回っていた。すると。
「あら、悟浄?」
「ん?」
振り向くと、酒場でよく見る女性がいた。女性は嬉しそうに悟浄に駆け寄った。
「久しぶりね、悟浄」
「そうだねぇ」
「最近来ないから心配したのよ?」
「あら、今度そっちに行くかもしれないから」
「今度じゃなくて今夜は?」
熱の帯びた声で悟浄の腕に絡んでくるが、悟浄はそれを軽く交わしていつもの様に人懐っこい笑顔を向けた。
「悪ぃ、今日はちょっと用事があってな」
「そうなの?何、新しい女?」
不機嫌になりながらも悟浄との付き合いはその辺りけじめをつけているらしく、しつこく誘ってこなかった。
「んー・・・まぁ、そんなもん?(八戒だけど)」
「なぁんだ。それじゃ、飽きたら私のところに来てね♪」
手を振りながら悟浄の元から去った。
「絶対に飽きねぇって・・・」
悟浄はそう言って歩き出した。そういえば・・・自分はこんなことを言えるほど八戒に惚れてるのかー・・・と感心してしまった。随分自分は変わったと思い、同時に八戒に感謝もした。
そんな八戒のために何か買っていってあげようと思い、色々な店を回ってみたが、つまらなかったので家に帰ることにした。
「ただいまぁ・・・」
「あぁ、お帰りなさい」
八戒が笑顔で悟浄を出迎える。この瞬間、悟浄はかなり幸せになる。自分を出迎えてくれる人がいるというのはこんなにも心が温まるものなのかと初めて知ったからだ。
「やっぱ寒ぃな」
「当たり前ですよ。もう殆どの人は一枚上着を羽織るかしてるんですから。もう少し季節感というものを持ってくださいね?」
やれやれ、と言いながら八戒は悟浄の上着を持ってきてくれた。それを『サンキュ』と受け取って羽織る。来たところで部屋に入ろうとした時、八戒が自分の額に手を当てていた。
「え・・・何?八戒」
「あぁすみません。貴方が先程様子がおかしかったので風邪か何か引かれたのではと思いましてね」
「いや、あれは違う・・・」
そういえば・・・自分は八戒に一言言えなくて家を出たんだと思い出した。何とも情けないことだ。
「あの・・・悟浄?」
心配そうに悟浄の顔を覗きこむ八戒。突然現れた八戒に驚いて顔を赤くしてしまったが、すぐに冷静を保とうとした。
「本当にどうかしましたか?悟浄」
「えーっと・・・その・・・なんだ?んー・・・///」
これ以上八戒を心配させると可哀相なので意を決して悟浄は八戒に言った。
「お前・・・誕生日!おめでとう・・・///」
悟浄は溜まりに溜まったことが言えて少し満足したが、八戒は驚きながら悟浄を見た。
「・・・あの、八戒??」
自分は何か変なことを言ったのか考えた。だが、自分は『誕生日おめでとう』としか言っていない。少し考え込んでいると。
「・・・ぷっ・・・あははは」
八戒の笑い声が聞こえてきた。あまり声を上げて笑わない八戒が笑うものだから悟浄は驚いてしまう。そんな八戒を見ながら悟浄はおろおろした。
「お・・・おい・・・八戒・・・??」
「あー・・・すみません悟浄・・・ただ、貴方は面白い方ですね」
「へ?」
何を言っているのかわからない。そんな悟浄を見かねて八戒は悟浄をカレンダーの前に立たせた。
「はい、では悟浄?僕の誕生日はいつですか?」
「え?9月21日だろ?」
「正解です。では、今日は?」
「だから・・・!!?」
カレンダーを見て驚く。そりゃそうだ。
「・・・おいおい・・・マジかよ・・・」
「マジです。今日は9月28日ですよ?」
悟浄は何を勘違いしたのか、今日を八戒の誕生日と間違えた。それなのに朝から一生懸命どう切り出そうと考えて・・・そんな自分を思い返してまた顔を赤くする。
「ぅわ・・・マジかよ!!俺カッコ悪///!!」
部屋に入ろうと八戒を押したが、その手は八戒によって掴まれた。
「え?はっか・・・い!?」
身体が軽くなったと思ったらそれは八戒が悟浄を抱きしめているから。何が起こったのか分からなくて慌てる悟浄を更に強く抱きしめた。
「ありがとうございます、悟浄」
「・・・え?」
誕生日を間違えたのに『ありがとうございます』?何も用意してなくて言葉だけなのに『ありがとうございます』?
「貴方が僕の誕生日が何日か覚えていてくださって嬉しいのに、その上おめでとうという一言を言うのに朝から悩んでくださって・・・僕は幸せですよ」
「っ///!?」
恥ずかしいことを言われて悟浄は更に顔を赤くしてしまった。
「それに、僕は実際21日に貴方と一緒に居られた・・・いいえ、今までも居てくださった。それだけで十分なんですよ?」
クスクス笑いながら八戒は悟浄に視線を合わせた。まだ顔が赤いが先程よりはマシになった。だが、悟浄は少し不満そうに八戒の髪を引っ張った。
「いたた;」
「それだけで十分なのかよ・・・」
八戒は『えぇ』と言った。だが、悟浄はその後続けて。
「俺は!今までだけで十分なんて思えない。これからも八戒も欲しいって思うんだけど?」
その言葉を発した悟浄は先程おろおろしていた顔とは打って変わって挑発的な顔になっていた。それは、悟浄らしい悟浄の顔だ。八戒はそのことを聞いて目を大きくしたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「そうですね・・・僕もこれからの・・・いえ、過去の貴方も欲しいですね」
「おう、それじゃあそれが誕生日プレゼントだ。お前に俺をやるよ///」
八戒は嬉しさのあまり悟浄に抱きついた。悟浄はまた顔を赤くしながらも抱きしめ返した。
本当に
これだけで
僕は
幸せになれるんです
ですから
これからも
一緒にいてくださいね?
―Happy Birthday HAKKAI―!